医療関係者の方

TOPICS
1 心不全診療ガイドライン 2 SGLT2阻害薬と心不全 3 新規のミネラルコルチコイド受
    容体拮抗薬エサキセレノン(ミネ
    ブロⓇ)
4 頻脈性不整脈に対するカテーテ
    ルアブレーションの長期予後効果
5 新規の高脂血症治療薬「ペマフ
    ィブラート(パルモディア®)」
6 不整脈非薬物治療の最新トピッ
    クス
7 心不全の新しいトピックスのま
    とめ
8 MASTER-DAPT試験と
    STOPDAPT2-ACS試験
9 経皮的僧帽弁接合不全症修復デ
    バイス「マイトラクリップ®
    (MitraClip®)」
10 肺高血圧症の新しいトピック
    スのまとめ

   ここは臨床に役立つ情報を提供していくページです。是非先生方でお互いに情報提供をして
   いただけますと幸いです。 (MMWIN事務局)

第10回目は肺高血圧症の新しいトピックのまとめについてです。
2022.8.23
    

肺高血圧症の新しいトピックのまとめ


〈肺高血圧症診断基準の変更〉


 肺高血圧症領域の直近の最も大きな変化の1つに、その定義が変更されたことが挙げられます。今までは平均肺動脈圧25mmHg以上が肺高血圧症の定義でしたが、2018年のニースのワールドシンポジウムにて平均肺動脈圧20mmHg以上が肺高血圧症の定義に変更になり、かつ肺血管抵抗3WoodUnit以上が定義に加えられました(図1)。ただし、現時点では平均肺動脈圧20-25mmHg、肺血管抵抗3WoodUnit 以上の患者に対して治療介入すべきかは明言されておりませんが、少なくとも注意深い経過観察が必要と提言されました。
図1:新しい肺高血圧症の定義
図1  また、同シンポジウムにて運動誘発性肺高血圧症の観念が改めて提唱されました。安静時には肺高血圧症を認めませんが、運動時に平均肺動脈圧20mmHg以上、肺血管抵抗3WoodUnit以上になることと定義されております。こちらも治療介入すべきかどうかは明言されておりませんが、平均肺動脈圧の変更と運動誘発性肺高血圧症の提唱は肺高血圧症の早期診断が重要であることを意味していると考えられます。これらの提唱を受けまして当科では肺高血圧患者の早期発見に関して、後述するようなフローチャートを作成したり、肺高血圧が疑われた患者に運動負荷右心カテーテル検査を施行したりすることで肺高血圧症の早期診断に力を入れて取り組んでおります。

〈肺高血圧症治療の治療の変遷〉


 一方で、肺高血圧症の治療薬に関してはプロスタグランジンI2製剤、Phosphodiesterase-V阻害剤、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬、エンドセリン受容体拮抗薬とここ数年は大きな変化はありませんでした。しかしながら、吸入薬としてプロスタグランジンI2製剤であるイロプロストの吸入しかありませんでしたが、今後トレプロスティニルの吸入が発売されることとなっております。この吸入薬はINCREASE Clinical Trialsでも間質性肺炎に伴う肺高血圧症に対してよい成績を出しており(N Engl J Med. 2021)、肺動脈性肺高血圧症のエポプロステノールの持続静注やトレプロスティニルの持続皮下注までのブリッジに限らず、今まで治療方法のなかった間質性肺炎に伴う肺高血圧症への初めての治療介入となると考えられております。また、トレプロスティニル吸入では間質性肺炎の進行も抑えられていたとのサブ解析をでており、今後も様々な治療側面の報告があると考えられます。 また、慢性血栓塞栓性肺高血圧症に関しては、末梢型に対しては経皮的肺動脈形成術にて良好な予後を得られております。一方、内服治療に関しては、今まで可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬しかありませんでしたが、副作用として低血圧が生じることがあり、体血圧の低い慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者には投与は困難でした。近年、プロスタグランジンI2製剤であるセレキシパグが保険適応となり、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の内服加療の選択肢が増えました。これらの薬剤は慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者の心係数を改善する効果が強く、経皮的肺動脈形成術を施行しても心係数が低い患者に対して有効である可能性が高いと考えられております。

〈肺高血圧患者早期発見の取り組み〉


 上記のような肺高血圧症早期発見を目指しまして、当科では肺高血圧症の紹介フローチャートを作成し、肺高血圧専門の連絡用メールアドレスを作成致しました(図2)。具体的には、息切れや下腿浮腫などの心不全症状があるか、または膠原病、肝疾患、肺疾患のある患者さんで、心エコーが可能な施設では心エコーを施行していただき、三尖弁逆流圧格差が35mmHg以上であれば紹介いただければ幸いです(以前は40mmHgとしておりましたが、肺高血圧症の定義変更のため35mmHgに変更しております)。
図2:ご紹介いただくフローチャート
図2 図2 また、心エコーができない場合でも、心電図にてV1誘導と右軸偏位を認める場合、レントゲンで心拡大と肺動脈拡大を認める場合、BNPが50pg/dl以上の場合は遠慮なく紹介いただければ幸いです。
 肺高血圧症は早期発見が大切となりますので、上記の紹介基準を満たす場合はもちろんのこと、他の所見から疑わしい場合でも紹介いただければ幸いです。何卒よろしくお願いいたします。

(東北大学病院循環器内科 広報誌 HEART61号より改編させていただきました。オリジナルはこちら